がんの三次予防を考える
(国立札幌病院・放射線科;M.Nさん:「北の鈴」第14号(平成9年)より)

 一言でがんの予防と言っても、医者の間では一次予防から三次までを区別して議論することがある。

 一次予防とは、がんにならないように生活習慣に気をつけるこであり、タバコや飲酒を控えることなどがその代表的な姿勢である。
規則正しく、バランスのとれた食事などもがん予防には重要であると言われている。
その他に、同一部位に頻回な過度の刺激を避けることなども注意すべき点である。例えば、歯牙が口腔内の形態に合わないため、常に舌にぶつかっているような状態では舌癌が発生することはよく知られた事実である。
このような、長期間にわたる慢性の刺激による発癌は、口腔・咽頭・食道・胃までの上部消化管や、喉頭・肺といった呼吸器系の部位では特に相関しているようであり、これらの部位ではタバコとアルコールが外的要因として最も関係している。

 二次予防とは、早期に発見してがんで死なないようにしようということです。
一般にがん検診の必要性と普及を目指して言い出されたことです。
最近、検診は意味がないという意見もありますが、やはり検診などを一つの契機として、がんを早期に発見して治療することにこしたことはありません。
小さい早期のがん治療では、単に治癒率が高いということばかりでなく、機能と形態を温存できる可能性が高く、低侵襲でかつ低医療費で治療できるからです。これが二次検診の意味です。

 三次検診とは、既にがん治療を受けた人が、再発や転移を来すことがありますが、これらを早く発見して治療しょうということです。
しかし、最近では重複がんの発見も三次予防の目的として考えられるようになりました。
重複がんとは、一つのがんに罹った人が、別のがんに罹ることです。同時期に複数のがんが発見される人もいますが、時期を異にして別のがんが発見される人もいます。
特に前述した上部消化管や呼吸器系のがんに罹った人は、十年以上の経過を見れば、20%から30%の人に別のがんが見つかることが判ってきました。
がんに罹っても治癒するようになり、長生きできる時代になるとこのような問題が生じてきた訳です。
北鈴会の皆さんは、多くは喉頭癌のために喉頭を摘出した人々ですが、喉頭がんも生活習慣の過程で慢性の外的刺激が発癌に大きく関与した疾患です。

 特に声帯は本来、すじや腱のような組織で、血流やリンパ流が非常に乏しく最もがんが発生しにくい部位なのですが、このような部位にがんが発生したということは、次に別のがんが発生しても決して不思議ではありません。
ですから、北鈴会の皆さんは特に三次予防に心掛けて下さい。
最近も皆さんの仲間のあるボイスリハビリーの指導員の方が、舌癌と中咽頭癌という二つのがんが発見され、小線源治療による放射線治療を行ないましたが、巧く治癒して三重複がんを克服してくれることを願っています。(現在は、完治して発声指導員に復帰しています。)

 喉頭摘出というハンディがあっても、がん予防につながるような健康的な生活で生き生きと暮らす姿は、きっとお孫さんや周囲の人々に共感を与え、より良く生きる意欲を与えるものだと思います。
また喉頭摘出後も力強く生きている人々を見ると、医者をやっていて良かったと感じ、明日からの診療に熱が入ります。お互いに頑張りましょう。