専門家の助言
お茶呑み法の理論と要領
(食道発声上達の助言から)
近における食道発声のレベルは、内容や普及度などからみて確かに向上したことが痛感されます。
そして食道発声の成功者は、各地で見受けるようになりました。このように普及してくると障害者とはいえ恵まれた障害者であることを感じますが、その源は関係者一同の自助的努力が実ってなされたのであります。

しかし、これらの上達者をよく見ますと、ほとんどの人が体験的で努力型の人が結果として得たのであって、理論的裏付けとなるとあまり関係ないというのが実態であります。
よって、今後は耳鼻科の医師と喉摘者とが一体となって、理論と実際の両面から最良の方法を開発しなければならないと考えます。

そこで今回は、私が10年ほど前に考えた「お茶呑み法」が、原音の発声とその後の発声に効果のあることがほぼ固まったので、ここに詳述しますのでご批判をいただきたいと思います。
  1. 実地指導の要領
    具体的指導の仕方を順序にしたがって説明すると
    • 食道発声が可能か否かの判定
      食道発声が不可能な人にこの方法を用いても意味がなく、木に竹を継ぐようなものですから、最初に可否の判定をします。
      それは練習開始をする前に「あなたはゲップが出ますか」と単純な質問 をします。
      するとだいたいの人が「ハイ」と答え(合図)ます。ゲップが出ることが判ったらすかさず「あなたは必ず声が出ますよ!これから声を出しましょう」と自信をもって話すと、それだけを言っただけで顔には明るさが出てきます。
      そこで次の順序で指導を始めます。
    • まず喉摘後の発声部分を中心とした喉頭の関係図を要領よく書いて(前以って用意するとよい)丁寧に説明します。
      その要点は、声はどうしてどこから出るのか、ゲップの出る理申発声部位、 食道入口部、気管孔など発声に関係ある部分について。
    • 次に「お茶呑み法」を実演して見せます。
      すると感心してすぐに自分でやろうとするから止めて、まず姿勢を正しくしてから開始します。
      この時、あらかじめコップにぬるま湯二箇を用意しておくとよい。
    • このようにして始めると、おおむね2〜3回で原音が出ます。
      出たならば「その声があなたの声ですよ」と言って褒めてやります。そしてどうして原音が出たかを前に示した図によって改めて説明すると意味をよく理解します。 つづいてお茶を呑んでは原音を出す動作を何回も繰り返していると調子が出て自信に溢れてきます。 ここまでに要する時間は、20分もあれば充分で、原音発声のコースは合格であります。

  2. 「お茶呑み法」の理論と要領
    前項の事項を適切に指導するには、以下のことを理解することが必要です。
    • 食道発声は空気を食道に入れることが基本です。
      その空気を食道に入れるのが難しくて、多くの人が苦労しています。
      「お茶呑み法」の考え方は、お茶を呑むことによって空気を否応なく食道に押し込みます。
      その押し込まれた空気を喉の奥の辺に押し上げるような気持で腹圧を加えて、強く短かく発声することによって原音を出す方法です。
    • この場合、失敗例として原音が出ないことが間々あります。
      原因はお茶が下りるのと腹圧をかけるタイミングが合わない場合です。これは発声部位における空気の位置と腹圧の関係を理解することによって自ら解決できます。
    • 次に大事なことは、気管孔を片方の手で軽く押えて発声すると空気が洩れないから確実に原音が出るので忘れずに実行するよう指導する。
    • お茶を呑む要領は、喉の奥でちょっと止めるようにして貯え、すぐに団子状に丸める感じで一気に呑み込み際します。
      これは空気を押し込むための大切なコツであります。この時ダラダラと呑むとお茶は食道の淵をつたわって胃に入るだけで効果はありません。
    • お茶は一呑み(一息)で声を発するのが原則です。
      お茶を呑まないで二度、三度と発声動作を繰り返すと声が出ないのみならず、誤発声に陥ることがあります。
    • 原音発声は空気を浅く呑んで、強く短かく発するのが効果的な発声法といえます。
    • 原音が出たあと、引き続き30〜30回連続して練習すると自然に空気を嚥下する要領を覚えます。
    • このことが充分に固まるまでは何回も繰り返して体で覚えることを指導します。
      お茶は何時までも続けないで、順調に原音が出るようになったら量を減らし、さらに全く止めてお茶を呑んだ時の要領で練習を行います。
    • 空気はお茶を呑む量が多ければ多く、少なければ少ない量が食道に入るので当然声量は比例して大・小に変ります。
    • 原音が出た時は付添いの家族にも原音を聞かせて共に喜び、希望を持っ一体感の配慮が必要です。

  3. 「お茶呑み法」の利点
    • 練習に入った時点で原音が出ることは、以後の練習意欲と希望につながるので、その効果は誠に大きい。
    • 発声する際に無理な力を必要としないから、老齢者や婦人などに奨められる。
    • 原音が出てから、次のコースである複音や短語に移る際のテンポが非常に早い。 この方法から練習を始めると口腔囑語にはほとんどならない。
    • 誤発声者の矯正に用いると効果なお顕著である。

  4. 「お茶呑み法」で成功した実績
    • これまで銀鈴会を治め各地の講習会で実験した結果は、おおむね80%の確率で成功しています。
    • 最近では昨年ブロック会の指導員講習会に7ブロック中5ブロックに出席して実験したところ、前項と同様の成功率であった。
    • 昨年十一月、ニューデリーのDr.アブロール先生の発声教室で、会員50名の中から発声不能者5名について実験した結果は、4名が直ちに発声し喝采を浴びました。
    • 本年四月、台北における喉摘者年次総会において発声不能者2名に実験したところ、2名とも直ちに原音が出た。

  5. むすび
    食道発声コースの中で第1関門ともいうべき原音発声について、「呑み込み法」の拙い体験を述べましたが、これが全てとは思いません。
    他にも有効適切な方法があると思うので、その長所短所を選別してよりよい方法を決めるのがよいと思います。
そして食道発声が厳しく、入り難いとされたのは原音発声の部分にあったかと思います。
これを速やかに解決することが上達につながる早道であることは聞違いありません。 よって私の体験結果であります「お茶呑み法」を敢えて披露した次第です。

なお、私が考えていることは、食道発声入門から1力年で社会復帰することであります。
それには原音発声から会話までをスンナリと道草を食わないで進まないといけません。
そして難関とされていた原音コースを早くクリアして、複音から会話に至る重点コースに充分時間をかけるのが、この目標達成につながると思います。