言語聴覚士
音声リハビリテーションの問題点とSTの役割
(北里大学・医療衛生学部:M.K)
<音声言語学1999vol-40,no-1より>


 わが国の喉頭摘出者(以下喉摘者)の音声リハビリテーションは欧米のそれと異なり,言語聴覚士(以下ST)が食道音声も含めて直接訓練しているのはごく1部の施設である。

大多数の喉摘者は喉摘者団体に所属し,その指導員から発声指導を受けている。
喉摘者団体がこれまでに行ってきた事業の功績は発声指導に限らず,計り知れないものがある。
しかし,今,喉摘者のリハビリテーションを真剣に考えるのであれば,音声リハビリテーションの問題点,つまり,STと医師が税極的に訓練に関わらないために喉摘者が被る不利益を,ST,耳'科医はもちろんのこと,喉摘者団体も直視せざるをえないはずである。

その不利益を一刻も早く解消することが,すでにSTの立場で訓練を行っているわれわれの使命と考える。
ここでは,STが現在行っていることと,今後取り組まなければいけないことを整理して述べる。
当院では,術後に音声訓練を行えると医師が総合的に判断した時点からSTが関わる。
喉摘者と家族に対してまず行うことは,オリエンテーションである。
術後の解剖学的な変化をよく理解させ,無喉頭音声の種類と適応,訓練の方法,期間などを伝える。
欧米では術前からSTが情報収集と情報提供,カウンセリングの意味も含めて関わることが多く,その利点は非常に大きいことが知られている。
当院における今後の課題である。

訓練に関しては基本的に,落伍者を作らず,誰もが何らかの無喉頭音声を獲得することと,一刻も早く無喉頭音声を狸得させることを考えており,その目標は達成されている.音声リハビリテーションに関与する要因として,手術の範囲,放射線治療の有無などに加 えて訓練技術が挙げられる。
訓練は,それを行うのがSTであろうが,喉摘者の指導員であろうが,失敗すれば,悪い発声法を習慣づけてしまう。
また,こちらのやり方次第でコミュニケーション意欲を失わせることもある。音声リハビリテーションに,より多くのSTが参画することが,これらの問題解決に必須である
そのために,われわれとしては,セミナーの企画などによる現任者の教育を検討中である。
また,喉摘を行う医師や喉摘者団体からSTへ,訓練に対する厳しい要求を突きつけて頂きたい。
喉摘者のリハビリテーションはSTによる音声訓練のみではなく,幅広い援助が必要なのはもちろんである。
当日は喉摘者団体と.STとの連携についても言及する.