<96年7月20日>
知識の吸収
(術後20日目)
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看護婦さんから食道発声法に関する本を借りた。その本を読んで驚いたことは、手術後2週間目から練習を始めた人がいたことであった。
私は手術してから3週間は過ぎている。少し焦った。
練習を早く始めて声を出したい。それとそれがどんなものなのか興味があった。そして、その本を読みながら、書いてある通りに練習を開始した。
本によると最初にやることは原音を出すということらしい。そのやり方は、空気を食道に入れるとき、胃袋まで入れないで途中で止めて、すく逆流させるという方法である。
そんな器用なことは出来ないと思ったが、
でもやるしかない!
図を見ながら頭を動かしたり、口をぱくぱくさせたり、身体をよじったりしていろいろとやってみたが原音が出ない。(ウンともスンとも音がでない)
暇があると「食道発声法の手引き」の本を読んだ。
それによって、自分の病気のことをしっかりと理解し、事後の発声練習に少しでも役立てればと思った。入院中である。
(術後8カ月目)
この発声法に関する本を読んで、本当にいろんな事を知り、じ後の発声の訓練にとても役に立ちました。
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<96年7月21日>
音が出た!
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「声を出す訓練をしていいですか」と書いたメモを主治医に渡した。
するとしばらくして電気人工発声器を与えられ、これで稽古をしなさいといわれた。私としてはこれを用いずに食道発声の稽古をしたいのである。
本の図解を見ながら、発声する手順をいくどもいくども練習した。その結果、食道から「ゲェ〜」という音がでた。
これが原音と思う。いまやってみた原音の出し方は空気を舌で押し込み、それより少し遅く下腹に力をいれると出る。
空気を呑み込むときは勇気が必要であった。空気という固まりを食道に無理矢理に呑み込むのだから。
空気って堅い塊まりである。
原音が出たときは、妻と一緒に喜んだ。なにしろ3週間ぶりに自分の力で音を取り戻したのだから・・・(たとえ、それがどんな音であってもうれしいものだ)
喜びを声に出せなかったのが残念。
病院のベットの上で妻と手を取り合った。
(術後7カ月目)
今でも覚えています。おっかなびっくりで空気を強引に呑み込んだときのことを。
(術後9カ月目)
食道入り口部を振動させて原音を出すためには、まず空気の獲得が先決です。つまり、空気を食道内に蓄えそれを逆流させて原音を出す事に成功しなければなりません。
(術後2年5カ月目)
発声の仕方を簡単にまとめてみました。
体験しよう
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<96年7月22日>
母音の練習
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「あ」「い」「う」「え」「お」の音らしきものが、なんとか出た。
リズムをつけると出しやすいみたい。
空気の呑み込む時の音が大きい。それと「あ」〜「お」までの発音が小さい。まだまだ超初心者だ。
どんなことをしてでも母音が出たということは、大収穫であり、うれしかった。
夜になって同じことをやってみたが音が出なかった。発声のこつを忘れてしまったのか不安である。
この日は、夢中で練習をした。1日はすぐ終わった。
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<96年7月23日>
呑み込み法
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「あ」〜「お」までの母音の稽古をした。
音の明瞭さは昨日よりも少し良いみたいである。でもまだ「あ」〜「お」の母音として私が認識できるのは70%ぐらいである。
他の人が聞いたらほとんど判別が出来ないと思う。
食道に空気を入れるときに雑音がでる。この音は水を飲むときの音と違って「クゥクゥ」と音である。稽古するときに身体が構えてしまう。
堅くなっているので、なかなか音がでない。
音を出すときの表情は力んでいると妻からいわれた。当たり前のことだが、まだまだ課題が多い。
本には、音が出ても出なくとも正しい姿勢で両手を膝の上に置き、力を抜いた状態で始めると良いと書いてあった。
暇があると食道発声法の本を読んでいる。
(術後11カ月目)
空気を呑み込むときに雑音が大きいのは呑み込み法の欠点である。決してその音は消えない。でも最初のうちは食道の襞が固いので、より一層大きく聞こえる。
(術後10カ月目)
空気を飲んでゲップが出ないのは空気が胃袋の中に入ってしまったからである。ここで書いてあるゲップとは逆流させたときの原音と思う
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<96年7月24日>
雑音で悩む
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食道に空気を送るときグーグー、グチャグチャと鳴る。
逆流した空気を音に変換できるのは、10%ぐらいである。
空気を入れるときの雑音が大きく、逆流させて音として出すときに大変小さくかぼそい。これを逆にしなくては。なんとかしてマスターしたい。
昼から再挑戦したが、はやりだめであった。ショック。どうしても空気を食道に入れるとき音がでる。
再度、本を読む。でもわからない。
2〜3日前よりもわずかな空気の量で音がだせるようになったが、空気を喉に入れるときじゃまな音が、吸った量だけ出る。
これが呑み込み法の欠点かもしれない。でもまず、音を出すのが先決と思い、この方法でしばらく稽古を行う。
より自然の形で発声したいと思い、吸引法の稽古を始める。
「うん」とも「すん」ともいわない。
そのうちできるようになると思いつつ稽古を終了した。
口に手を当ててやると、少しは暖かい空気が出ているみたい。暇になると食道発声法の本を夢中で読んでいる。
(術後10カ月目)
とにかく最初は音を出すことであり、姿勢とか形等にはかまわない方がよい。音が出てから悪いところは徐々に修正していくと良い。すなわち音を出すタイミングを覚えることが大切である。
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<96年7月25日>
無我夢中だ
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吸引法の稽古したが全然音がでない。
銀鈴会出版の本に次のように書いてあった。「呑み込み法」を最初に稽古をして、自由に出せるようになったら吸引法を稽古したほうがベターである。「呑み込み法」を10分間、「吸引法」を5分間、病院の屋上で稽古をした。
「呑み込み法」は相変わらず空気を飲むときグーグーと音がする。「吸引法」で練習してみたが、ウンともスンともいわない。
「電気人工喉頭器」を使う練習したが、「は」行「ま」行と「か」行の区別が付かない。
また、その音は、ロボットが話している音みたいで、抑揚がなく一本調子であり、明瞭でない。でも最初はこれで話そうかと今は思っている。
とにかく自分の力でなんとしても、どんな方法でもいいから音を出すのに無我夢中である。「溺れる者はわらをもつかむ」心境である。
病院のベットの上での稽古、病院の屋上での稽古。とにかく1日中稽古であった。
1に稽古、2に稽古。
(術後1年2カ月目)
電気人工喉頭器に頼る気持ちはわかります。当時は音の出る方法があれば、なんでも試してみたい気持ちであった。
(術後2年5カ月目)
呼吸と同一周期で吸引し発声が出来るようになった。でもまだ調子の悪いときは聞きずらい。
<96年7月26日>
吸引法できた
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吸引法をNさん(FV会員)にお教えてもらった。
その通りにやると原音が、すこしでた。ほんの少しであるが、これが吸引法による原音かどうかわからない。
呑み込み法と違ってグーグーと空気を飲むときの音が出ない。自分でついに「やった」と思った。
雑音で気が狂いそう悩んでいたために、とてもうれしかった。
リズムを取ると音が出る。要領は、口の中に空気を入れるようにする。(そのとき顎を引く)そして腹圧をたかめる。
ただそれだけ。出来てしまうと簡単である。これだけのことで今まで苦労をしてきた。
雑音が無いというのはこんなに聞き易いのかと改めて思う。感激である。
(術後10カ月目)
上手な人の声の出し方をじっと見ているだけで何かをつかめるものである。
<96年7月27日>
やっぱり音が出ない>
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吸引法でいくら発声をしようと思っても音が出ない。
昨日できたのは、どういうわけか不思議である。
ショックである。昨日の発声で音が出たは、「吸引法」でなく、「呑み込み法」ではないかとの錯覚をする。心配である。
夜になって、一人でベットの上で、呑み込み法で音を出し、その後に吸引法の練習をした。
原音がでたので少し安心した。やはり、他人に聞いてもらわないと吸引法による音かどうか自信がない。
食道発声に関する本を暇があると読んでいる。
(術後1年4カ月目)
音が出ないからといってあきらめて呑み込み法だけ練習していたらなんにもならない。必ず出来ると信じて、根気つよく練習をすることである。
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<96年7月28日>
超難しい
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昨夜の通り、吸引法でやってみたが音がでなかった。
いくらやっても音が出ない。つらいものである。声を出そうと思っても出ないものであるから本当につらい。
喉頭摘出前までは、そんなことを考えたこともなかった。午後から呑み込み法で稽古をした。
これからの1週間は「ああ」「あいえ」母音3文字まで稽古するつもりである。「吸引法」はいくらやってもできない。
難しい。
でもあきらめない。
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