ゆさん、なずなさん、おはようございます。「技巧の極致」の回の解説をします。 唐山陶人(雄山の師匠)の喜寿のお祝いに招待された山岡君と栗田さん。山岡君は鯛料理を巡って雄山と衝突(毎回こうなるので、栗田さんの気苦労は計り知れないです)。「日本料理の華である鯛料理の技法は極め尽くされている。素人のお前に出る幕などない」と言う雄山、「謝るのは、俺の素人料理を食べてもらってからだっ。」と応じる山岡君。周りの著名な料理人は、「素人にできるわけがない」とざわざわ。 鯛料理のヒントをつかもうと、山岡君と栗田さんは、明石で船に乗る。山岡君が海に飛び込み泳ぎ始めるが、波にのまれて溺れかける。やっと船に這い上がった山岡君に、栗田さんが、「海の水は美味しかったですか?」と皮肉をいうが、この言葉にヒントを得て、山岡君は鯛の調理法を思いつく。 鯛の開きを出した山岡君に、雄山は「干物と言うのは(甘鯛・アジ・カマスなど)匂いの強い魚でなければうまくない。」とこき下ろすが、周囲の反応の変化に、一口食べた雄山は、「塩かっ」と、その秘密を見抜く。山岡君は、明石海峡の淡路島側の浜で、昔ながらの入浜式塩田から塩を入手し、鯛がとれた場所の海水の濃度に調整して調理していたのです。例によって負け惜しみを言って退席する海原雄山。 山岡君は(という事は雁屋哲は)、魚や肉の旨味について、タンパク質が分解されて出来るアミノ酸の旨味だと、たびたび解説しています。釣ったばかりより、数日後の方がうまいのは、そのためです。同じように、天日干しすることで生成するアミノ酸の旨味が、干物の味の命です。ゆさんが干物を美味しいと感じるのも、この太陽の光によって分解・生成したアミノ酸のおかげです。それをシンプルに、かつ技巧をこらして引き出した山岡君の、完全な勝利でしょう。栗田さんの何気ない一言が、ヒントになったのも嬉しいです。栗田さんはこの時期、まだ料理について何の知識もないのだけれど、天性の味覚により、本質を突く発言をします。そういう栗田さんに、山岡君も知らず知らずのうちに惹かれていくのです。この描写がまた嬉しい。前回、栗田さんの嫉妬が、ゆさんにとっては愛おしいとのご意見があり、なずなさんも賛同されました。これを読んだ私は、「しまった!自分の男ならではの勝手な感想を、男女共通のものと思い込んでしまったか!」と反省しました。逆にいえば、私と同じ感性(ある時点以降、男は女の嫉妬を、うとましく感じるようになる)を持つであろう雁屋哲が、男女共通の感情に訴える作品を描ける事に、改めて感心しました。 さて、ここからは私の釣り自慢です。2001年5月、私は松輪沖で、相生の桜鯛を釣りました。大きな方は、49センチありました。その日、私の部下が、研修に行った報告会があり、病院の職員約40名が集まったのです。私は病院の調理室を借りて、鯛の松皮づくり、潮汁、白子と真子の酒蒸しをつくり、40人に振る舞いました。栄養士や調理師をアゴで使って料理を取り仕切り、とりわけ栄養士から「潮汁の味をみてください」と言われ、「もう一つまみ塩を入れると、旨味がグンと引き立つよ」とアドバイスして、気分は最高!この時食べた鯛が、わが人生で最も美味であった事は、想像に難くないでしょう。
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